2012-01-01から1年間の記事一覧

虹の都へ

蒸し暑い国際線の到着ロビーに降り立った彼は 1ドル硬貨で新聞を買った。 未整備の道路を縫うように空港リムジンバスは市街地を走る。 失業率80%の太った大人たちは何をすることもなく戯れいていた。 少子化もあいまって、社会保障などとっくに撤廃されたに…

沈没

その商船は優雅に大海を泳いでいたが 古い海洋図しか持っていなかったので 都度変化する海面下の状況を把握してなかった。 クリスマスの夜、 空には怖いほどに明るい月が昇っていたにも関わらず 船は北の海で座礁して停止した。 すぐに引き返せばよかったの…

コスモス

朝 目が覚めた。 秋晴れの静かな朝だった。 彼女がこの家を出て行くという朝だから 少しでも早く起きて 父の威厳を示そうと思っていたのだが 二度寝してしまい、家族では一番最後になったのもばつが悪い すっかり片付いた娘の部屋を横目に 階下に下りていく…

流星少年

10代のころ 彼は小さな中古のバイクを買った。 バイク屋の親父は胡散臭そうな目で彼を眺めては捨てるようにキーを渡した。 それでも彼は満足だった。 会社の二階に部屋を借りて彼は一人で住んでいたから、いつも自由で孤独だった。 小さなバイクの小さなエン…

ロケットライフ

彼は年齢を重ねるたびに その世代世代ごとの椅子を手に入れることに 喜びを感じていた。 しかし、あるとき彼はふと疑問を感じた。 それは本当に彼が望んで手にした椅子だったのだろうか? 子供が親から与えられるように 結局は平均的なラベルに満足していのた…

2032年

ちょうど夕方のラッシュアワーに掛かったころだった。 混みあった車内は少し窮屈だったが、もう少しで乗り換えの駅につく それまでの我慢と思えば彼も少しは気がまぎれた。 それにしても ホームにたどりついた車両はなかなか発車しなかった。 スピーカの調子…

ストラトキャスター

すっかり3つのノブやピックアップカバーは黄ばんでしまった。 メープルに薄く塗られたラッカーの指板も彼の癖を表すように はがれている。 黒のストラトはクラプトンで有名だったが あいにくそんなことを彼は知らず、 レスポールよりは未完成で その有機的…

逆光線

ある晴れた日の朝、 フラフラと飛ぶ零式艦上戦闘機が一機 南洋の空に現れ そのまま東の空へ消えていった。 付近を操業中だった漁船から無線経由で海上保安庁に伝えられたが 相手にされなかった。 (何かの見間違いでは?) 大きな入道雲が八月の空を我が物顔…

キャズム

汗ばむ週末だったが 降車した地下鉄の駅では更に混みあっていた。 年末年始に神社仏閣へ集うように 大勢の人々が首相官邸に向かう シュプレヒコールがさまざまに聞こえる 誰かのプロパガンダに乗り アジテーションと称して ここに来たわけではない。 政府と…

スーパーヒーロー

自分は人とは違うと思っていた 特別な人間なんだ 彼の虚栄心は幼児の頃からのものだった 対等な人間なんていない エゴと自己愛の塊だった彼に友人はいなかったが 彼自身はスーパーヒーローだったので(友人なんて) いくらでもできると思っていた。 高級なゲ…

リスナー

船は沖合で帆を降ろし 星の谷間に停泊している レシーバーからジジジ、チチチと かすかな音が伝えられるたびに 大気中に放電されたプラズマが この小さなアンテナを目掛けて 飛び込んでくるのか それとも。。 宇宙から流れ落ちる星の 燃え尽きる寸前のつぶや…

再生

天主堂を背にキラキラと光る波間を見ていると 今がいつの季節かわからなくなる 頬に陽の温もりを感じながら 旧校舎から聞こえてくるピアノはたしか ショパンのなんたらだったかと彼女は思う 結局 一緒に死ぬはずだった彼は 約束の場所に現れなかった そんな…

団体専用列車

月曜の朝、彼は出張の準備に手間取り遅れ気味に家を出た。 いつもの新幹線はその時間、そのホームに停車しいる。 彼は階段をかけあがりながら、発車の直前 その新幹線に滑り込んだ つもりだったが 車内は子供でいっぱいだった ゲームを興じたり、お菓子を食…

Hey Jude

白い顔に、毬栗頭の関西弁、 中学にはいって同じクラスになったSは 父親の都合で兵庫から引越してきたばかりだった。 そんなSが僕を家に招いてくれた理由はよくわからなかったが 二人は共通した趣味がいくつかあり 自然と仲良くなった。 ビートルズも二人…

eclipse

そのことを思うと 夕闇が迫る公園に 取り残された玩具のように 彼の中に不安がよぎる つかみきれない気持ちは 茜色の空に流れるきれぎれの雲のごとく 心の中に広がる あの気持ちはなんだろう? コンビニの蛍光灯の下 青白い顔の彼女もまた そのことを思うと…

楽園の追放

ある朝 工場長が新しい機械を導入した。 しばらくすると二人の工員がいなくなった 町角にたばこの自販機が設置された 少しして近くのたばこ屋は店じまいした。 駅の改札口はスムースに 通り抜けられるようになったけど 駅員の笑顔は見られなくなった。 自動…

防人

北のほうの国から早朝、ミサイルが打ち上げられた。 数年前に国家予算ののべ1/4を投じて完成した 国土防衛システムは速やかに検知し ミサイルの弾道を追尾すると共に 関係各所に警報を発した 最初に官邸に現れた国務大臣は 水玉のパジャマ姿だったが、 すみ…

家政婦

奥様は若い家政婦に申し付けた。 リビングの角にほこりが溜まっているじゃない! 洗った皿に小さな食材がついているわ! お肉の焼き方にムラがありすぎる! 洗濯物の皺がとれてないじゃないの! ... 立て続けにクレームをつけると最後に 「きちんとやって…

新しい教室

春休みの間 閉ざされていた教室は ワックスの匂いが鼻をくすぐる 見慣れた廊下や階段も ひとつ進級し、新しい仲間と巡り合う季節には なぜか新鮮に見えるから不思議だ 新しい教科書の頁を折込ながら授業が進む。 わさわさとした雰囲気はクラスに漂うものの …

みらいくん

お昼時 鼻歌混じりで、みらいくんは暖簾をかきわけて入ってきた「おばちゃ〜ん。肉うど〜ん」みらいくんは毎日この食堂を利用してる みらいくんが何故みらいくんと呼ばれているかというと 彼は未来からやってきたのだが、時間旅行法に違反して 時間流しの刑…

名残の雪

曇天のホームでは「のぞみ」を待つ人々が 少しづつ列を作った。 ・そういえばきみ最近どうしてたんや ・ほぉほぉ そぉかぁ 突然、男は一人でぶつぶつをつぶやき始めた ・んでなんでそんなカッコウしてんねん(笑) ・気色悪いわぁ 最初は電話でもしてるのか…

告侮

ワイシャツの袖を捲くった若い刑事は 机をたたき、彼の腹を思い切り蹴りとばす。 鈍い音と共に彼とパイプ椅子は冷たい床に放り出された 再び彼を椅子に座りなおさせると 今度は初老のやせた刑事が 懐からハイライトをとりだし火をつけた 「もういいから観念…

ひきしお

満ち足りた毎日の中で 何かがぼんやりと欠け始める 砂の城が波に浚われていくほど あっという間ではないが いつの間にかぼんやりと欠け始めている それは少しずつ汐が引いていくかの如く 彼の心のエンジンが減速していく みんな 帰りたがっている春の夕暮れ…

また会う日まで

二ヶ月まえに会った彼は元気そうだった 最後にどんな言葉を交わしたのか? それを考えてみたが 思い浮かばない すぐに会える きっとまた 出会いと別れが希薄だった 彼に会えなくなって そのことを思う 生き方とは いなくなってしまって 示されるものなのか?…

家族について

公園の池で遊ぶ鴨はきっと家族だね だっていつも一緒にいるもの 空に浮かぶあの雲も家族だよ あれほど手を伸ばして別れを惜しんでる そう いつもそばにいるから そのぬくもりを忘れていたんだ ああ そのことに君が気づくことが 遅すぎないことを僕は祈るよ。

幽霊

朝 目が覚めてリビングに行くと 老いた父と母が、静かにお茶を飲んでいた 彼女は「おはよう」と声をかけたが 耳が遠いのか返事はない もう一度「おはよう」と声をかけると ようやく母はこちらを向いて笑った 二人はいつもこうして会話もなく 向き合って座っ…

No Frame, No Format

それまでの彼にとっては無茶なことだと 思っていた従来の固定概念では容易にことは進まず、 十分なネゴと準備が必要だったそれが大人のやりかたというものらしい定型に拘わっていれば、槍玉にあがることもなく あとで失敗したとしても。。 いや それでも彼は…

私は四角いリングで戦っている相手が 私自身だと気がついた そして 私の弱いところを 知っている相手は 巧みにそこをついてくるそして、その攻撃に 私は沈黙してしまう 夕刻の寺の縁側にて 隣に座った武蔵が 3つのことを唱える。 まず戦っている相手を 十分…