2022-01-01から1年間の記事一覧

ゴン

ゴン お前だったのか? 硝煙を発する銃を抱えたまま彼はつぶやいた お互いがどう言うものか わからないまま真実にたどり着く事がある 降り積もった雪に小さな木の実が 大事に供えられている 痩せて細くなったキツネの体温を彼は 愛しく思った。 雲の隙間から…

月樹

月の世界には不思議なものがある。 乾いた土から垂直に一本の白樺が 天に伸びている その先を仰ぎみるも 幹も枝も漆黒の闇に溶けて見えない。 ただ時折り落葉で葉を散らすが 月面に落ちる前に塵になってしまう。 もう幾十年も彼はこの木と対峙している 彼は…

2062年 朝食

彼女は静かに眠っている 白いベッドの上で 時折寝返りをうちながら やがて32Kモニターの壁紙は 輝度増しながら朝が近づいた事を 知らせてくれる リアルサラウンドスピーカーと オールアラウンドエアコンディショナーが みずみずしい空気で早朝の静けさを 演…

忘れもの

花の都に鉄の雨が降っている これから何世代もの親子が 錆びた土を耕す事を思うと 胸が痛い。 忘れものはないかと 家を出る時に家族に問われて 大丈夫だと笑って見せた。 ホームで待つ列車に乗るころから それが気になり始めた。 大事なものを忘れてきたよう…

ピザの箱

仕事場から家に帰ると井戸の近くにピザの箱が置いてあるなんだこれは?中味は厚紙に野花を乗せてピザを模したものだった。子供のイタズラかと彼は苦笑した。しかし翌日も翌々日もピザは届けられた。かかぁもきみが悪いと嫌がったので親方に休みをもらって非…

急募諜報員

20世紀に暗躍した諜報員も冷戦終結とグローバル化によって活躍の場を失い、今は映画の世界で見かけるくらいしかない。多くの諜報員は社会に復帰し家庭に戻りその能力を持て余しながら時を過ごした。ある日、大手新聞紙に載せられた暗号広告は彼らに衝撃的だ…

姉妹

薄くらい子供部屋で彼女はぼんやりと今見た夢のことを考えていた私の事覚えてる?少女はなつかしい声と笑顔を残して消えた。13年間一緒だった妹はある日いなくなった。机もベットも靴もマグカップもみんな消えてた。画像や動画もみんな残っていない父も母も…

桜の園

金沢の下宿先でひとりインスタントラーメンを啜りながら朧月を眺める。三年前 桜の下で待ってるとそう言い残して彼女は彼の前を去った。それからしばらく桜の下で彼女が戻るのを待っていたが再び姿を現すことはなかった。月は何も語らず ただわらってる。あ…

不満の主

汝 我を崇め奉り賜え民に対する主のメッセージはシンプルだった。民の意識が遠のくと心が狭い主は 災い諍い争いを振る舞った自らの手でどうする事もできない時民は主を崇め奉り祈りを捧げたすると主は満足になった。このやりとりが数万年続いた後主は民に戒…

脳内ラジオ

ある朝 頭の中で軽快な音楽と共に女性が勝手に話始めたニュース、お天気、交通情報株価、占い、次々と情報が流れる。頭がおかしくなったのだと彼は心療内科を訪れ、MRIも受けたがラジオは彼にしか聞こえない今日のラッキーカラーは赤か。それにいつも流れて…

夕ばえ交差点

2月になるとほとんど授業はなかった。クラスも誰かが受験でいなくて自習が続く。未来は何処に繋がっているのだろう?後輩達の部活を除く気分にもならず今にも降りそうな鉛色の空を恨めしく仰ぐ。なんて空だろう。この1でも0でもない時間を彼は持て余している…

月の雫

冬の月は冷たい空に凛として静かに笑ってるすべてわかっていると言わんばかりにもう大丈夫だと慰めるように彼女がいつも笑っている事ですっかり彼はそれ以上の事を考えていなかった。君の笑顔の向こう側にある哀しみに僕は届く事ができないそんな歌が昔あっ…