沈没

その商船は優雅に大海を泳いでいたが
古い海洋図しか持っていなかったので
都度変化する海面下の状況を把握してなかった。
 
クリスマスの夜、
空には怖いほどに明るい月が昇っていたにも関わらず
船は北の海で座礁して停止した。
 
すぐに引き返せばよかったのだが、
そのまま前進してやり過ごそうとしたのがいけなかった。
 
船倉の隔壁をまたいで傷がつき、静かな浸水が始まった。
 
船はそのまま深い紺色の海を航行し、
誰もがそのことに気がついたときには遅かった。
 
ぐぐぐぐっと船は傾き始め
寝ていた船員たちは突然ベッドから投げ出された。
 
船は大海の真ん中で沈み始めると
上級船員は救命ボートにさっさと乗り込み
退避を始めた。
 
救命胴衣を身に着けるまもなく
冷たい海に投げ出された船員たちは
沈み行く船に飲み込まれまいとした。
 
救命ボートに乗れなかった中級船員は
こんなときでも部下の船員をはげましていた。
 
「がんばれ 飲み込まれるな!」
 
それを見た船員たちはおかしくなった
 
「あんたも飲み込まれているんだが!?」
 
そうやってみんな海の底に沈んでいくと
また静かな夜が戻ってきた。