虹の都へ

蒸し暑い国際線の到着ロビーに降り立った彼は
1ドル硬貨で新聞を買った。
 
未整備の道路を縫うように空港リムジンバスは市街地を走る。
 
失業率80%の太った大人たちは何をすることもなく戯れいていた。
少子化もあいまって、社会保障などとっくに撤廃されたにもかかわらず
国民の3割以上は成人病だといわれる。
国の輸入品目はおもに食料品であり、自国の通貨は流通していない。
 
彼は持ち込んだサンプルを国の役人に渡すだけの仕事だったが
かって経済大国と名を馳せた国の暴落ぶりに興味があった。
 
なにが数年でここまで貶めてしまったのか?
 
インフラ(とくに電力)の整備がおいつかず
外国からの誘致もままならないため
産業はどんどん廃れて行ったらしい。。
 
ホテルにチェックインして迎えの車を待つ間、彼は新聞を眺めた。
 
富裕層は早い段階で海外に脱出したが
多くの国民はこの経済崩壊直前のまま、数年を向かえ
見かねた隣国から市民権貸与の申し出があったが、政府は保留としている。
 
このまま亡国となるのならば、大国の市民となったほうが
まだ国民は幸せではないのかと、彼は思う。
 
迎えの車の後席で、彼は役人に質問した。
 
(なぜこの国ではクーデターがおきないのか?)
役人は苦笑した。
 
沿道の朽ちはてた古い鳥居がその答えなのかもしれないと
彼は思った。