2018-01-01から1年間の記事一覧

雪が降る町

休日の午後、彼は用事をすませて車に戻った。 すでに年末の渋滞気味の国道を彼は家路につく。 ラジオは慌ただしい師走の様子をさらに 伝えてくれる。 もうそんな時期なのだと彼はハンドルから 手を放して信号を待ってる。 雪が降ったと妹が電話で教えてくれ…

Out of Network

森に帰ることはない。 もう 森には 何もない。 小さなせせらぎの照り返しを ほおに受けて彼女は軽く跳ねた 青い空を切り取った紅葉達が 連なって風に揺れる アンテナはいらない 受信するものなど何もない 無駄な電波が空を濁しても 私の耳には何も聞こえない…

あの桜の木も切り倒したのか

小さな不動尊の祠の道路越しに 古い文化住宅が軒を連ね その傍らに黄色いペンキで塗られたブランコ、 それを見守るように大きな桜の木があった。 おそらく樹齢100年以上に違いなく 春の日は多くの桃白色の花を 咲かせ人々を和ませたに違いない。 また、ブラ…

2012年 残身

今年のスイカは大きいのを食べ損なった 彼はぼんやりと虫の音を聞きながらそう思った。 去年切れた糸はまだ繋がっていない。 蛍はどうだった? 彼女はつぶやいた 蛍はいたっけ? 彼もつぶやいた 蛍は見たっけ? 小さなカブを転がしてバイト先に向かう (折り…

夏至

梅雨の晴れ間 交差点の向こうに武者が立っていた。 古めかしい鎧と兜を装って彼は動かない。 折れた矢が背や腹に刺さる。 枯れ草が腰に絡まリ、ハネた泥が頬に残る。 やがて一人二人と陽炎のように武者が増える 馬に乗ったものもいる 誰も表情はわからない …

タイムラプス観測所

北の果ての小さな建物が彼女の職場だった アンテナから拾う地場は計測紙に記録され その中から変移点を拾い終わると、 ケトルのお湯をカップに注ぐ 彼女はコーヒーを抱えて屋上の扉を開いた。 夏の森はまだ眠りにつかない 湖畔の波はまだ何かが深いところで …

ロケット公園

その公園には小さなオレンジ色の ロケットがあった。 でも エンジンはまだ付いてない。 これでは外洋に出ることはできないと 博士は耳を真っ赤にして四人の助手達 に力説した。 その日から博士は数字を組み合わせた難しい式に取り組んだ。 助手達も回路、制…

10 years odyssey

10年の時間は何もなかったわけではない 何かあったわけでもない 失われたものもあれば、生まれいくものもある。 備中の小さな駅から始まり、相模の小さな駅に辿り着く lost time his lifeは彼の言葉だったが 今は自分の言葉になりつつある。 次の10年は最後…

彼女は思う 家族で坂を登ってたころ 自分はきちんと役割を担っていただろうか? 両親の力にゆだねて ただ手を引っ張られて登っていた あちこち余所見をしたり ときどき横道にはぐれたり それでも家族は見守ってくれた 坂は続く やがて両親は老いる それでも…

宣誓

朝 彼が会社にたどり着くと 机の上に多くの書類が山積みにされていた。 それを全部 裁断機に放り込むと 彼は自分のコンソールを起動した。 誰かのお手柄の仕事などまっぴらだ。 お昼のランチを軽く済ませると 複数のクライアントからメールが届く。 その中か…

すれ違いの記憶

そのバーは駅から少し離れた 古い雑居ビルの中にある。 照度をおさえたサインポール からエントランスを抜けると 広葉樹の厚いカウンターの向こうに バーテンダーが澄まして 迎え入れてくれる。 奥はボックス席になっているが 大抵の客は木のぬくもりが感じ…

祈り

人々が 生命の鍵を発見をしても 永遠の炎を手に入れても 恒星間航行を可能としても やっぱり敵わない 手と手を組み合わせて 人々は祈る事を停める事はないだろう 永遠の上に永遠を重ねて。