リスナー

船は沖合で帆を降ろし
星の谷間に停泊している
 
レシーバーからジジジ、チチチと
かすかな音が伝えられるたびに
 
大気中に放電されたプラズマが
この小さなアンテナを目掛けて
飛び込んでくるのか
 
それとも。。
 
宇宙から流れ落ちる星の
燃え尽きる寸前のつぶやきかと
彼は勘ぐる
 
無線機の淡く輝く電光管の前に
夜の静寂から離れて一人
彼は雑音に耳を傾けていた。
 
定時連絡を経て、
この南洋の下、単独航海を
改めて身に感じるひとときだった
 
突然
ぎぎぎぎぎぎぃと
波が大きくうねり、彼の老朽船は左右に傾く。
 
ガガガ、ガリガリガリと雑音がひどくなったかと思うと
波長が乱れたように受信機は騒がしくなった。
 
風もないのに不思議だと彼はキャビンの外にでると
いつの間にか丸い月が波を照らしている。
 
やはり何か聞こえる、なんだろう?
長く低い歌声が遠くから聞こえる。
 
人生を俯瞰した溜息のようにも
何かを伝えるための伝言のようにも
そのクジラは静かに歌っていた。