2009-01-01から1年間の記事一覧
星に感染する新種のインフルエンザが見つかった。 星の温度は急激にあがりはじめ、多くの食物は育たなくなった。 そして生物も。 石に囲まれた地域にすむ一部の人だけが、少しだけ難を逃れた。 彼らは草原に住む人々に手を差し伸べるべきかどうか悩んだ。 そ…
さびしいからと誰かを道連れにしてはいけませんその人にはその人の道がある さびしいからと誰かの道連れになってはいけませんあなたにはあなたの道がある 道を歩き たどり着いた場所は自分だけのもの。その道程に出会い別れた遺物だけが道連れです。
月夜の晩でした。そっと寝そべった丘にはたくさんのコスモスの花がゆれています さきほどまでのお祭り騒ぎが嘘だったように町は静まり返っています そして影法師のように そいつはいつのまにか心の隙間にくっついているのです。
高密度となったハードディスクは多くの情報量を持つことができる 生まれてから死ぬまでの写真や音声、動画、メール、バイオグラフ、雑感。。脳の記憶よりも鮮明で劣化のない情報量。 本人さえも忘れてしまったメモリが保管される時代になった。他人の人生そのものを、これま…
『ねぇ あの鍵 まだもってる?』その言葉の意味を理解できなかった。 枕元のデジタル時計は午前3時まえ。窓辺に青い月あかりが差し込む 一人暮らしの部屋で男は 生々しい言葉の余韻をかみしめた。 『夢か?』しかしどんな夢かも思い出せない。『鍵? あの声?…
子猫は一人で身支度を整え 迎えにくる施設の職員を軒先で待っていた 身の回りの品なんてそんなにはない。 交通事故でなくなった両親を思うと 涙がでそうになるのを踏みとどまり、 遅れて迎えにきた職員に 「おせわになります」 と小さな頭を下げた。
記憶に意味はない。 ただそこを通り過ぎた風のようなものだろう。だから彼女の場合、失った恋人に対しても何も感じることはなかった。 男の欲望のままに身を預けることに抵抗はなかったが 抱かれていても彼女は誰のものでもなかった。 記憶はただの歴史にす…
買ってもらったばかりの彼の自転車には、小さな羽根がついてた 最新式でまだ他には売ってないんですよ。 と太った店主は話しかけてきた。「うそだい 健太君だって乗ってるよ」そういうと店主は「そんなことない、ほらここをみてごらんなさい」 「この小さなホ…
どうしても海に帰りたいと彼の妻は哀願した。やせ細った彼女の傍らで彼は世界で一番哀しい顔をした。「どうしてもかい?」やっとこのことで喉をふりしぼったちいさな子供はただオイオイ泣いているだけだった「ごめんね」彼女は幼子の頭をなぜた 朝早く、彼女…
その朝、 いつものように、彼は靴をはいて会社へ向かった いつもの駅のいつもの場所で彼は地下鉄を待つ。 そしていつものドアから見慣れた景色の旅に入る。 はずだった、 しかし、足をすべらせて履いた革靴も、磨かれた駅の改札も ドアにたたずむいつものOLも…
バンマスは腕を大きくかざして、頭を振った。 銃弾は一斉に雨の中を縦横無尽に撃ち放たれる 楽隊は海岸を目指し上陸の機会を伺うも 炸裂する音の壁に身動きがとれない。 第一バイオリンは左の土手にたどり着き 弓も折れんばかりに激しい攻撃を仕掛ける。 それに続か…
その恋が真剣であればあるほど、滑稽だった。好きになればなるほど、現実的ではなかった。理想と現実の間に挟まれて皆の前では道化を演じるしかなかった。 ... 二つの世界を行ったり来たりしながら、今日も迷路をさまよう多くの亡者たち。
彼女の魅力は八重歯だった。自然に笑ったときに右端に除く八重歯は友達にも人気だった。 それがどういう理由なのかは理解できなかったが、 彼女自身もそれが魅力なのだと思っていた。 好きな人ができたとき 彼女はその魅力を武器にがんばった。しかしどうし…
昔、彼が子供だったころ 小さな木を卒業記念に植えた なぜか今ごろになってそんなことが 気になってしょうがない。 そんなものが残っているかどうかも わからないまま 彼はふと足を伸ばして、昔住んでいた 母校のあたりを訪ねると すでに景色はまったく異な…
夏の夜、ささいないことで アパートから飛び出した彼女の背中。 それを追いかけるように彼も飛び出した。 わずかに車がとおりすぎるほどの国道を 彼女はとぼとぼ歩いてる。 彼もまたその後ろを。 行き先もなくただ無言で。 夏の虫が近くで遠くで鳴いている。 田…
雪原を歩き、凍った森に迷いこんだのは、日没間近だった。食料でもあればと思ったもののすっかりフリーズしてしまった世界では時間さえもよくわからない 月の明かりを頼りに奥深く照らされた湖にたどりついたときようやく彼は安堵してしずかに小さなボート小屋で…
雨の夜だった。持ち主を亡くした携帯が鳴った。 この番号はもう誰も知らないはずなのに。彼は少し驚き気味に電話に出た。 電話の向こうで 「留守電に入れてもらったみたいですが、番号間違ってるみたいです」 と親切に女は伝えてくれた。「留守電?」 彼は聞…
パイロットは少し北側のコースをとった彼にとっては珍しいことだふと隣席の後輩は顔をあげたちょうどこの時間なのだ夏の夜海辺の大きな遊園地では花火があがる 少しだけ見て飛行機は滑走路へ 静かに降りた。
あれほど欲しがっていたものなのにいざ手に入るととたんに冷めてしまうだから 永遠に手に入らないものこそが一番大切なのかもしれないほんとは そうじゃないんだけど。
宇宙は空のはるか彼方に広がる天体だけではない。銀河の渦の端っこにある太陽系の中に浮かぶ小さな青い星に住む彼もまた一つの宇宙の存在であることにかわりはない。 宇宙は外にもあり、内にもある。 禅のように。
人生にタイトルをつけろと、そういう意味で墓標がある。
朝、ラジオ体操に行くと スタンプを押してくれる。夏休みの子供のノルマみたいなものだった。たしか毎日続けると何かもらえるという 子供内の話になっていた。 ところが、彼は風邪で行けない日が何日かあった。 友達も結局、旅行とかで休んでしまった。あのとき毎日…
やや固めの椅子に腰掛けて、彼女は身を窓辺に移す。 加速を始めた列車は青い田園を進行する。 子供のころ遊んだ風景が思い出と交差して流れていく。 苦くて甘く。 どこかに逃げ出したくなるような青春だった。 何度も何度も走馬灯のように窓に現れては吹き飛…
竹藪の笹がさらさらと風になびく。 何度かここで彼は娘の帰りを待った。 今日は、明日はと。 幾度となく妻はそんな夫を迎えにここへ来る。 いつの間にか老いた二人の影が長く伸び、 鳥が高い空で鳴く。
コンピュータはデジタル処理の箱。 にもかかわらずメモリに入力されるのはアナログの塊出力されるのも同じ。 人がどんなにデジタルにあこがれても 結局、人はアナログの塊だから。しょうがない。
その匂いにも記憶がある 写真にすりこまれた思い出のように。 ただ視覚と異なるのが明確でないことだ、 そして、突然訪れるから構える手段がない。 いつの記憶だったのかとたぐりよせることもあれば 一瞬のその記憶と結びつくこともある。 3Dで画像を見せら…
もうすぐ 4時になる。それまでにこの仕事をきりあげないと、次の仕事に影響する。彼は15分のタイムリミットの中でうまく配分して仕事をかたづけ始める。 時を忘れて反復作業をこなし始めると 麻酔をかけられたような錯覚に陥る。 これは錯覚だと自分でいいきかせな…
彼女は5月が好きだった 4月の馬鹿騒ぎがすぎて、森の若葉がそろいはじめるころ ながれるせせらぎを子守唄に しずかに眠りにつきたいと思ってた。 小さなボートに身をまかせ 揺られながらそっと川を下る 透きとおる空の光は波紋を返し 小鳥のさえずりを遠くに聞…
萎びたジャズバーの奥で老いたピアノ弾きが 物憂げな旋律を奏でる。 とおりすぎた愛や恋が輝き始めるのは 二度と手にすることがないと きがついたとき。 その渦中にあって あれほど苦い思いをしたのに その苦ささえなつかしい... 古いピアノはそう歌っているよ…
窓の外は夜だった ばらまかれた無数の星屑は存在しているが瞬くことはなかった今の彼は何もすることがない。太陽の引力を振り切ってこうして慣性飛行に入ってしまった後は 母星から指令がくることもなくなった。 彼はもう何年もこうして星を見つづけている。…