2014-01-01から1年間の記事一覧

継承者

ある朝、バス停で彼は若い男から 弟子入りを打ち明けられた 普通の会社員である彼にとっては 意味がわからんと気味悪がって その場を離れた が彼に心酔する男はどうしても 弟子入りさせて欲しいと何度も 身近に現れて懇願した しぶしぶOKしたものの 弟子な…

リプログラミング

新興政治団体 新進教育党が 政権を取ると公約通り 教育改革に着手した。 これまでの義務教育期間を 20年とし、既に社会人として 働いている者に対しても 再義務教育として10年間が 割り当てられ会社や地域の中に 再教育機関を設けた。 新進教育党はこれまで…

1992年

少し早めに会社をふけた彼は 改札を通り抜けて 田園風景が広がる車窓を ぼんやりと眺めていた。 車内は混み合うことなく ゆったりと時間は流れて 隣の女学生は心地よく まどろみの中にいる。 そんな平和な丘陵の向こうに 巨大な宇宙船のような 白いドームが…

獲麟

十有四年春、西に狩して麟を獲(え)たり 西国へ仕事で出かけた先で、人々が口々に 見たことのない獣が山で捕らえられたと唱えた 興味本位で彼は、会社の同僚と車をかって 消防署の分署へむかった。 到着すると獣を中心に村人が囲んでいた。 口々に馬でも、…

幽霊花火

布団に入って横になっていると 遠くでドンとなる音が聞こえた。 空耳だろうとスタンドを消して 眠ろうとするとまたドンとなる 少ししてパンという音も聞こえる こんな遅くにと彼女はのそのそと起き上がり カーテンを少し開いた 向こう町の川岸に淡い光の影が…

スイッチ

彼がそのスイッチを押した後に 多くの罪無き人々の自由と幸せを奪うとしたら 彼はそれを押す前に気がつくべきだった。 何の疑問もなく、ラジオのスイッチを回すように その変哲もないスイッチを彼は押しただけだった そういう言い訳を彼はするだろう。 実際…

ビオトープ

新しい担任の意向で 彼のクラスの生き物係は担当制ではなく 持ち回りとなった。 生き物に触れる機会が少なくなった 現代において、みんなで飼育することは 大切なことなんだと説いた。 そんなわけで月に一回は水槽の水替えと餌やりの 当番が回ってくる。 最…

自分と暮らそう

自分はどのくらい自分のことを知っているだろう? ふと考えてみた。 自分のことだから知ってて当たり前だと 言う人もいる。 でも、まわりの人からみて、自分はどういう者だろう? というのはある。 それこそが、社会の中での自分であり 内面の自分の評価とは…

これから

今日は何をしようか? 公園に散歩に行って見ましょう? いいね 新緑に囲まれて胸いっぱいに深呼吸しようか? いいわね 明日は何をしましょうか? 岬まで上って青い海を眺めてみよう いいわね! キラキラと輝く春の海に朧げに沈む夕陽をみたいね 空気は気持ち…

帰り道

学校から帰ると挨拶もそこそこに 彼はランドセルを脱ぎ捨てて 近くの書店へ毎月読んでいる漫画雑誌を 買い求めに駆けこんだ。 にもかかわらず、雑誌は その日に限って売り切れている。 発売日を何日も前から楽しみにしていた彼は 少し遠くの本屋まで行ってみ…

When the broken hearted people.

例えば 世界中のどこかにおなかをすかせた子供がいて 食べるものを与えることができないママがいて 天国に召されることだけを待っているとしたら 例えば 身近な病気を患った子供に、ワクチンが届く術も無く 少しだけのベッドも与えられず、たった一人で 天国…

地図にない国

海図をいくら見ても、そこにはなにもない。 世界地図を開いてもそこは海だ。 グーグルアースは残念ながら雲がかかって見えない。 だが、 目の前には忽然と陸がある。 若い航海士の彼にとっては信じられないことだった。 船は昨夜、突発性低気圧のため 大きく…

小さな手帳

夫が愚痴っぽい人だと気が付いたのは 結婚してしばらくしてからだった。 結婚する前は明るくて楽しげな人だと 思っていたが、一緒に暮らし始めると 仕事のことや親族のこと、近所の道路工事だ 昨日のテレビだといつも彼は愚痴を吐いている。 最初のうちは相…