団体専用列車

月曜の朝、彼は出張の準備に手間取り遅れ気味に家を出た。
 
いつもの新幹線はその時間、そのホームに停車しいる。
彼は階段をかけあがりながら、発車の直前 その新幹線に滑り込んだ
つもりだったが
 
車内は子供でいっぱいだった
ゲームを興じたり、お菓子を食べたり、奇声をあげたり
混沌とした場に彼は固まった。
 
(修学旅行らしい)彼は自由席を求めて車両を探したが席はなかった
たまたま そのホームから出発した専用列車に彼は間違って乗ってしまったらしい。
しょうがなくデッキにたたずんで外を眺めていると
 
「こら なにしてんだ 気分でも悪いのか?」と
薄毛の中年男が声をかけてきた
「? いえ 大丈夫です」と彼が呼応すると
中年男は
「じゃあ自分の席にもどりなさい」と言う。
 
「?いや あのまちがえ??」彼はそのちぐはぐな答弁を訂正しようとするが
男はむりやり彼を車内に押し込んでしまった。
 
すると3人がけの席を対面にした奥から
「なにやってんだよ こっちこっち」と手招きする男の子がいる
 
「??」どこかで見たやつだと、近づいていくと
4人でトランプをやっているらしく
一つ空いている席に伏せられたカードが置いてある

「どこいってたんだよ 早くしろよ」その子が肘でつつくと
彼はこの子が同級生のKだと気づいた
あいかわらずスキッパだなとぼんやりと眺めていると
 
「どうしたの 気分わるいの?」と対面のショートカットの女の子が聞いてくる
近所に住んでいたIさんだった。

隣に座ってたMさんも白い顔に大きな瞳で心配そうに覗き込む。
彼は少し緊張しながら、カードを手に取り、改めて見渡す
 
KとY、MさんとIさん 小学校のときに同じ3班だった仲間。

Kは実家のあとを継ぎ、今は幕張で建築会社の社長をしている。
Iさんは留学先のニュージーランドで結婚して牧場で暮らしているらしい。
(何年か前の同窓会で誰かが教えてくれた)
Mさんは卒業前にお父さんの都合で北海道に転校することになって、
あわてて告白したが惨敗、その後は音信不通。
Yは。。Yは中学に上がった年に病気で他界した。
 
みんなで集まってお葬式に並んだ夜を覚えてる
 
「カードだせぇ〜」Yが声変わり前の高い声で笑いながら叫んだ。
「ああ」と手持ちのカードを覗き込むとカスばかりだ。
しょうがない全交換とカードを捨てて。。
 
新しいカードを開くとき新幹線はトンネルに入り
一瞬、車内の照明が消えたように思えたが

 
「だれだ」「だれだ」の声に我に返ると
まわりの子供たちが騒いでる
 
「おじさんだれ?」「おじさんだれ?」
いつのまにか3班の仲間はいなくなり知らない子供たちの中に彼はいた。
 
額の汗を拭きながらデッキに戻ると
ちょうど熱海あたりの青い海が広がって見える
 
あの夏の日に3班の仲間と乗った丸い新幹線は
今頃どのあたりを走っているだろうかと
彼は思った。