キャズム

汗ばむ週末だったが
降車した地下鉄の駅では更に混みあっていた。
 
年末年始に神社仏閣へ集うように
大勢の人々が首相官邸に向かう
 
シュプレヒコールがさまざまに聞こえる
 
誰かのプロパガンダに乗り
アジテーションと称して
ここに来たわけではない。
 
政府と戦っているつもりもないし
 
目の前の若い警察官に
危害を加えるつもりもない。
ましてや、
公共物や私有物を
壊す意味は感じられない。
 
小さな私腹を肥やす官僚や
責任から逃れる企業を問うつもりもない
 
では本当の敵はなんだろう?
 
去年
パラダイムシフトした時間を
再び戻そうとする力に拒否する人々なのだ。
 
そうか 時代なのだ。
 
これは古い概念にとらわれた時代と戦っているんだ。
 
するといつのまにか
誰かが歌を歌っていた。
 
国歌を歌っている
専制君主時代の悪い歌だと揶揄されることもある歌だ。
 
ただこうして耳にする歌詞は
過去の自分達から今へ、
そして未来の自分達へ
つなげて行こうとする歌のようにも聞こえる。
 
その不幸な時代、
愛する人を想い・尊う代わりに命を捧げた先人にとって
未来を封じ込めるような、この過ちを望むわけはない。
 
(僕たちは先人に愛されて今を生きてる、そして) 
それを停めることができるのは
たった今の自分達だけなのだろうと彼は思う。
 
愛するこの国の未来のために...
 
 
その夜、人々は首相官邸を輪に静かに国歌を歌い抗議を続けた。