2009-07-01から1ヶ月間の記事一覧
その朝、 いつものように、彼は靴をはいて会社へ向かった いつもの駅のいつもの場所で彼は地下鉄を待つ。 そしていつものドアから見慣れた景色の旅に入る。 はずだった、 しかし、足をすべらせて履いた革靴も、磨かれた駅の改札も ドアにたたずむいつものOLも…
バンマスは腕を大きくかざして、頭を振った。 銃弾は一斉に雨の中を縦横無尽に撃ち放たれる 楽隊は海岸を目指し上陸の機会を伺うも 炸裂する音の壁に身動きがとれない。 第一バイオリンは左の土手にたどり着き 弓も折れんばかりに激しい攻撃を仕掛ける。 それに続か…
その恋が真剣であればあるほど、滑稽だった。好きになればなるほど、現実的ではなかった。理想と現実の間に挟まれて皆の前では道化を演じるしかなかった。 ... 二つの世界を行ったり来たりしながら、今日も迷路をさまよう多くの亡者たち。
彼女の魅力は八重歯だった。自然に笑ったときに右端に除く八重歯は友達にも人気だった。 それがどういう理由なのかは理解できなかったが、 彼女自身もそれが魅力なのだと思っていた。 好きな人ができたとき 彼女はその魅力を武器にがんばった。しかしどうし…
昔、彼が子供だったころ 小さな木を卒業記念に植えた なぜか今ごろになってそんなことが 気になってしょうがない。 そんなものが残っているかどうかも わからないまま 彼はふと足を伸ばして、昔住んでいた 母校のあたりを訪ねると すでに景色はまったく異な…
夏の夜、ささいないことで アパートから飛び出した彼女の背中。 それを追いかけるように彼も飛び出した。 わずかに車がとおりすぎるほどの国道を 彼女はとぼとぼ歩いてる。 彼もまたその後ろを。 行き先もなくただ無言で。 夏の虫が近くで遠くで鳴いている。 田…
雪原を歩き、凍った森に迷いこんだのは、日没間近だった。食料でもあればと思ったもののすっかりフリーズしてしまった世界では時間さえもよくわからない 月の明かりを頼りに奥深く照らされた湖にたどりついたときようやく彼は安堵してしずかに小さなボート小屋で…
雨の夜だった。持ち主を亡くした携帯が鳴った。 この番号はもう誰も知らないはずなのに。彼は少し驚き気味に電話に出た。 電話の向こうで 「留守電に入れてもらったみたいですが、番号間違ってるみたいです」 と親切に女は伝えてくれた。「留守電?」 彼は聞…