2019-01-01から1年間の記事一覧
クシャミをして彼は目覚めた。 寒い朝 彼はホームレスになってた。 昨夜いつものように家族と暮らすベッドに 潜ったはずなのに彼は一人だった。 見知らぬ場所で見知らぬ人たちと 公園のベンチに座り 行く先のない男は 鳩を眺めながら 以外にも冷静な自分に驚…
登り行く雲は上へ上へと臨み挑む 蒼空を目指して迫る頂きに 佇む時間は一瞬に過ぎない。 永遠に日々は繰り返されるとの 錯覚の中で彼は 何かの単位を持って限界を感じるとき それは山を下る合図になるのだと悟る 下界を見渡しながら坂は麓へつながる 下りは…
南の島の 森奥深く海水と淡水が混じり合う場所に枝を伸ばし葉を重ね合わせ空を囲むその木の花は甘い香りを漂わせる。 虫たちはそれに誘われて集まってくるのは青い満月の夜 昼間は見えないものが夜には見えるものがある。 花を咲かせ 実を結び 種を残す。時…
スモッグに包まれた夜旧新宿の闇市で彼は偽装された中古のタイムマシンを見つけた 吃音に癖のある老店主はジャンク品のため返品不可と笑った。 プラズマエンジンは初期型でエナジーは高濃度水素ガス座標計は多次元ジャイロを応用したプロトタイプが後付けで…
残暑の町はまだまだ暑かった。プールサイドで空を見上げながらひところよりも雲が高くなったような気がすると髪を短く切った彼女は思った 塩素の混じったプールには入りたくなかったがもうすぐこれも卒業だと自分に言い聞かせた 無邪気な同級生たちは歓声を…
夏の夜、修羅が一匹、町の方から飛び込んできた 『たのむ 匿ってくれ』 アラムハラドは修羅に憐みを感じ引き戸の中に彼を隠した 松明をもった襷掛けの追手が辻のあたりでお尋ね者を探し回っている。 彼は修羅に水を飲ませ、傷の手当てを施した 気が落ち着い…
その日は肌寒く鉛色の雲が空を覆っていた 日本青年館に入ったのはそれが最初で最後だった 外苑のイチョウはとっくに葉を落とし開演までの時間を彼はひとり、ぼんやりと過ごした。 人々は徐々に静かに集いはじめ、開演前にそれぞれの指定席を目指した。 彼も…
日曜日の朝、大きなケースを持って叔父は彼の部屋にやってきた 子供のころからよく遊んでくれた兄のような存在だ。 気さくに叔父は高校合格の祝いだと大きなケースからギターを取り出して 自分が使ってたものだが、悪いものではないと彼に手渡した。 中学の…
人生は与えられるものである眼が与えられ耳が与えられ、歯が与えられハイハイから立ち上がり、歩き出す友を得て、共に歌い、共に凌ぎ社会を学び、恋を学び、家族をつくり未来に向かう 人生は奪われるものである社会から離れ友を失い、家族を失い歯を奪われ、…
正月明けということもあり彼は駅ビルに入っている床屋で髪を切ることにした。 以前近所の床屋で勧められるままにパーマをかけたらとんでもないことになったからだ。 四階の店内は静かだった。こんな日に客が来るかという疑心暗鬼で店を開いていたのかもしれ…
衛星からのビーコンは見当たらなかった コクピットの中で彼は目的地近くを彷徨った夕焼けはすでに山の向こうにある 電流計がゲージを切ると予備のバッテリー分しか持たない。 少しでも電池を持たせようとパネルの輝度を落とした翼に風を乗せようと少し高度を…
彼女は思い切って外に出てみようと思った自分の靴ではなかったが裏口から木戸を潜り抜け通りに出るといつのまにか路面は薄っすらと露に濡れ空には月が澄ましておいてある。 さてどうしたものかと?彼女は思案する間も無く線路沿いの細道を見つからないように…
月は町を照らしたその明かりで連なる電信柱に影ができた 田んぼの稲穂は刈り取られ遠く近くに虫の音は広がる 月は笑っているのか機嫌がいいほどにのんびりした夜だった 店先に並ぶ野菜たちはすでに寝床にはいって寝ている 三弦目を張り替えたころに電話が鳴…
それは誰かの夢だった。新しい服に着飾って明るい街を歩いてる。 それは誰かの夢だった。夏の風に吹かれて大声で好きな歌を歌った。 確かに誰かの夢なのだろう。夕暮れのバス停で大切な人の帰りを待っている。 お正月には一緒にお雑煮を食べたり凧をあげたり…