名残の雪

曇天のホームでは「のぞみ」を待つ人々が
少しづつ列を作った。
 
・そういえばきみ最近どうしてたんや
・ほぉほぉ そぉかぁ
突然、男は一人でぶつぶつをつぶやき始めた
 
・んでなんでそんなカッコウしてんねん(笑)
・気色悪いわぁ
最初は電話でもしてるのかと後列の彼女は思ったが
男は誰ともなく一人で喋りつづけた。
 
・どついたろかぁ
・このぼけぇ(笑)
ワークシャツにボサボサの髪の毛で若気た男を
周りは薄気味悪がった
 
・あほかぁ そんなんええわけないやろ(怒)
・なんでそうなんねん
しだいに気の違った男の声は大きくなり、
肩をゆするような仕草を始めたころ
「のぞみ」はホームの奥に小さく姿を見せた
 
・あかんあかん そんなんぜったいあかんわぁ
・きみ よぉかんがえてやぁ

目を見開き、歯をむきだして
喉の奥から叫ぶように男はネタをつづけた
 
・なんでやねん
・そこがええとこ ちゃうんかい!
春色の服に包まれた旅客たちが乗り終えた後
「のぞみ」は静かにドアを閉じて発車の警笛を鳴らした
 
・もうええわ きみとはやっとられんわ。
そういうと男は深々と頭を下げ
一緒に乗るはずだった相方と、
去りゆく「のぞみ」を見送った。