ひきしお

満ち足りた毎日の中で
何かがぼんやりと欠け始める
 
砂の城が波に浚われていくほど
あっという間ではないが
いつの間にかぼんやりと欠け始めている
 
それは少しずつ汐が引いていくかの如く
彼の心のエンジンが減速していく
 
みんな 帰りたがっている

春の夕暮れ、岬の浜辺を散歩していると
誰かがそんなことを唱えた
 
みんな 帰りたがっている

静かに波は沖へと帰っていく
 
みんなと帰ろう

帰ろう 

帰ろう