逆光線

ある晴れた日の朝、
フラフラと飛ぶ零式艦上戦闘機が一機
南洋の空に現れ
そのまま東の空へ消えていった。
 
付近を操業中だった漁船から無線経由で海上保安庁に伝えられたが
相手にされなかった。
(何かの見間違いでは?)
 
大きな入道雲が八月の空を我が物顔で謳歌している。
午後には不安定な天気が予想されると気象情報を
テレビは伝えていたが
 
未確認の飛行物体が突然現れ、すでに
厚木から航空自衛隊機がスクランブル発進したとの
ニュース速報に代わった。
 
迎撃機のパイロットは目標地点に到着したが
何も見つけることはできなかった。
ただキラキラ光る波の逆光が目に焼きついた。


(お化けかね?)
彼は他愛も無い言葉をつぶやいた。
 
その夜
無数の羽音で彼女は目が覚めた。
レジプロ機は帝都の空に編隊で現れた。
 
月のない夜だったが
確かに日の丸が羽についているのを見た。
 
だまって人々は空を眺め
老いた彼女は乾いた唇で兄の名を呟いた。
 
すると
羽の先端からパチパチと
線香花火のように煌き始めた。
 
パチパチパチと瞬きは大きくなり
夏の空の厚い雲に機影を照らした。
 
いくつもの飛行機は線香花火になり
しばらくの間モールス信号のように何かを唱えながら
 
西の空に硝煙を残して、夜の雲に消えてしまった。
 
翌日
気象庁は気圧の変化に伴う、
不安定なプラズマ現象のようなものと説明したが
それを誰も気にする事はなかった
 
八月の夜に、零戦が帰ってきたとしても
不思議なことは何もないと人々は思った。。。