幽霊

朝 目が覚めてリビングに行くと
老いた父と母が、静かにお茶を飲んでいた
 
彼女は「おはよう」と声をかけたが
耳が遠いのか返事はない
 
もう一度「おはよう」と声をかけると
ようやく母はこちらを向いて笑った
 
二人はいつもこうして会話もなく
向き合って座っている
 
でも ずっと離れて暮らしてきたので
こうやって一緒に暮らせるようになったことは
うれしいと
彼女は思った
 
ただ朝からのんびりもできず、
簡単な朝食と手際のいいお化粧で彼女は
会社へ飛び出していった
 
門扉が閉じる音で
老婆は誰かが来たのではないかと
白髪の亭主に問いかけるが
返事はない
 
リビングの欄間にかざってある
娘の写真を眺めながら
彼女は短いため息をつく。