すっかり3つのノブやピックアップカバーは黄ばんでしまった。
メープルに薄く塗られたラッカーの指板も彼の癖を表すように
はがれている。
黒のストラトはクラプトンで有名だったが
あいにくそんなことを彼は知らず、
レスポールよりは未完成で
その有機的でレトロなデザインを備えるこいつには
沈黙という名の色が似合うと彼は勝手に思った。
(何も語ることはない。 音以外で。)
奈落にいてその時を待つとき
昔、音楽雑誌で見た無名のギタリストの写真を思い出す。
細い横顔に強い視線、きつく閉じた唇とうらはらに
ハイポジションを抑える左指の主張。
そのモノクロの写真だけで彼はギタリストになったと
言えばバンドのメンバーに笑いとばされるだろう
(しかし純粋とは そんなものである)
数万人のオーディエンスの歓声が彼の音を待っている。
きっと彼の横顔もあの写真の主と同じように
逃げることなく、やってくる恐怖と戦い
勝利を祝う準備をしている。
(さぁ)