告侮

ワイシャツの袖を捲くった若い刑事は
机をたたき、彼の腹を思い切り蹴りとばす。
鈍い音と共に彼とパイプ椅子は冷たい床に放り出された
 
再び彼を椅子に座りなおさせると
今度は初老のやせた刑事が
懐からハイライトをとりだし火をつけた
 
「もういいから観念したらどうだ、お前だろ?」

空気が抜けるような声で問うたあと
タバコの火を無言で彼の手の甲に押し宛て詰った
 
「いいかげんにしろ!」

いやちがう 俺は家族を殺してなんかない

若い刑事は面倒くさくなったのか今度は竹刀で
彼の背中を何度も叩いた
 
「おまえが殺したんだ」

老刑事の顔は小学校の教師になり
ふりかぶらないまま拳を押すようにゴツゴツと殴り始めた
 
「おまえは不正直ものだ!本当のことを言え!」

顔はボコボコに腫れ上がり、切れた瞼の血が眼に入る。
教師は小さいころ親しんだ教会の神父になり
静かに強い口調でつづけた
 
君のご両親は本当に君のことを思って育てあげてくれたのに君は
なにひとつも返すことをせず、ただ
衰えていく両親を放置して都会で遊び呆けていたのではなかったのか
 
人はみな死が訪れる 訪れることを知りながら
君は大切な人と大切な時間を過ごすことを軽んじていたのではなかったのか
 
見なさい
ご両親はいつか君が帰ってくるのを待っていた
空虚に耐えて希望を持って待っていた。

その声は遠く空の上から聞こえてくるようでした
 
彼は真っ赤になった両耳に手を当て膝をつき

ああ 本当にそうだったかもしれない
僕が家族を見殺しにしたんです

そうつぶやいたまま取調室で気を失った。