『ねぇ あの鍵 まだもってる?』

その言葉の意味を理解できなかった。
枕元のデジタル時計は午前3時まえ。

窓辺に青い月あかりが差し込む
一人暮らしの部屋で男は
生々しい言葉の余韻をかみしめた。

 
『夢か?』

しかしどんな夢かも思い出せない。

『鍵? あの声?』

思い出せそうで思い出せない。
どこかで聞いたことのある声には違いない。

男はとうに忘れてしまった鍵を女は覚えていて
その鍵を男がまだもっているかと女は問う。
 
きっと女にとってはまだ残された扉なのだろう。

それがいつの時代のどこの扉だったのか
男ってのはさっぱり思い当たらない。