記憶×思い出

記憶に意味はない。
ただそこを通り過ぎた風のようなものだろう。

だから彼女の場合、失った恋人に対しても何も感じることはなかった。
男の欲望のままに身を預けることに抵抗はなかったが
抱かれていても彼女は誰のものでもなかった。
記憶はただの歴史にすぎない。
 
いつものように仕事を終え、定刻の電車に乗り一人暮らしのアパートへ帰る。
簡単な夕食を片付け、彼女は洗濯物をとりこむためにベランダへ足を運ぶ。

近所の子供達が集まっておもちゃの花火でもしているのだろう。
小さな花火の閃光と硝煙のにおいが彼女の窓まで届く。
 
そのまま彼女はベランダにしゃがみこんで泣いた。
何もわからないまま、ただいいようのない懐かしさだけに取り込まれてしまった。

記憶に意味はない。
ただ通り過ぎる風の中に紛れ込んだ何かが。。。残ってる。