その日は肌寒く鉛色の雲が空を覆っていた
日本青年館に入ったのは
それが最初で最後だった
外苑のイチョウはとっくに葉を落とし
開演までの時間を彼はひとり、
ぼんやりと過ごした。
人々は徐々に静かに集いはじめ、
開演前にそれぞれの指定席を目指した。
彼もまた、誰かの後を追うように
自分のチケットを握って腰を掛けた
純粋に彼らの音楽を楽しみたい
昔聞いた彼らの音楽はなぜか、当時の
自分と向き合うことになっていく。
一度は終わってしまった彼らを
再び目にすることはないと思っていたが
実際に始まってしまうと、
それ自身が夢のように思えた。
アンコールを迎えてお開きとなった帰り道
小雨が冬の歩道を濡らした。
傘を持っていたかもしれないけど
その日は差す気分にもなれなくて
地下鉄の駅まで歩いたんだ。
しばらくして彼らは
本当にいなくなってしまった。