2002年

 

その日は肌寒く鉛色の雲が空を覆っていた

日本青年館に入ったのは
それが最初で最後だった

 

外苑のイチョウはとっくに葉を落とし
開演までの時間を彼はひとり、
ぼんやりと過ごした。

 

人々は徐々に静かに集いはじめ、
開演前にそれぞれの指定席を目指した。

 

彼もまた、誰かの後を追うように
自分のチケットを握って腰を掛けた

 

純粋に彼らの音楽を楽しみたい
昔聞いた彼らの音楽はなぜか、当時の
自分と向き合うことになっていく。

 

一度は終わってしまった彼らを
再び目にすることはないと思っていたが
実際に始まってしまうと、
それ自身が夢のように思えた。

 

アンコールを迎えてお開きとなった帰り道
小雨が冬の歩道を濡らした。

 

傘を持っていたかもしれないけど
その日は差す気分にもなれなくて
地下鉄の駅まで歩いたんだ。

 

しばらくして彼らは
本当にいなくなってしまった。