月は町を照らした
その明かりで連なる電信柱に影ができた
田んぼの稲穂は刈り取られ
遠く近くに虫の音は広がる
月は笑っているのか
機嫌がいいほどにのんびりした夜だった
店先に並ぶ野菜たちはすでに
寝床にはいって寝ている
三弦目を張り替えたころに
電話が鳴った
近所の飲み屋に友達が帰ってきたらしい
合流しないかとの誘いだった
妻に詫びて軒先をでた
半時ほど歩いて店につくと
すでに出来上がった懐かしい顔がそろっている
ここも上機嫌だった。
都会の話や地元の話、
古い話や明日の話で盛り上がった後
さよならをして皆 家路についた
よこがおの月はもう山の方に傾いている
俺は俺の人生を送っているよと
ふと110年前の自分につぶやくと
軽便貨物の警笛がポーっと
遠くで答えた。