その日

 

正月明けということもあり
彼は駅ビルに入っている床屋で髪を
切ることにした。

 

以前近所の床屋で
勧められるままにパーマをかけたら
とんでもないことになったからだ。

 

四階の店内は静かだった。
こんな日に客が来るか
という疑心暗鬼で店を開いて
いたのかもしれない。

 

鏡の中の彼は23歳。
分厚いレンズの眼鏡を
コンタクトレンズに変えて
何か他のものになろうと
していたのだろう。

 

前髪を後ろに流した
新しい髪形は違和感と共に
それに慣れようとしていた。

 

店を出て駅のロータリーへ出れば
やはり人影は少ない。
コートの襟を摘んで
彼は寮へ戻っていった。