クローン

 

彼女は思い切って外に出てみようと思った
自分の靴ではなかったが
裏口から木戸を潜り抜け
通りに出ると
いつのまにか路面は薄っすらと露に濡れ
空には月が澄ましておいてある。

 

さてどうしたものかと?
彼女は思案する間も無く
線路沿いの細道を
見つからないように
歩きだす。

 

虫の音は更に豊かに 秋の彩りを
演出する

 

そう言えば同じことが
昔もあったように思える

 

記憶がないのに
懐かしいとは不思議なものだと
彼女は電信柱の長い影と自分の影を
重ねながら ふと不安になった。

 

いや あの小路を曲がれば不安は
払拭すると履き慣れぬ靴で坂を降りる

 

あの小路には誰かがいて
私を待っている
記憶はないけど、そうに違いない。

 

彼女はかけた。靴が外れて裸足になって。
でもね。
血が喉に絡まるくらい大きな声で
その人の胸で泣いたんだ。