Out of Network

森に帰ることはない。
もう 森には 何もない。
 
小さなせせらぎの照り返しを
ほおに受けて彼女は軽く跳ねた
青い空を切り取った紅葉達が
連なって風に揺れる
 
アンテナはいらない
受信するものなど何もない
無駄な電波が空を濁しても
私の耳には何も聞こえない
 
落ち葉の陽だまりは
千代紙を重ねたように美しい。
渡そうと彼女は考える。
小さな後輩たちにこの気持ちも
風景も
 
森への帰り道は知らなくてもいい
もう、私はそこには行かない。
 
ふと つり革の手を滑らせて
彼女はたった今の考えを不思議に思う
 
雑踏の中で 空耳に振り返った。