獲麟

 
十有四年春、西に狩して麟を獲(え)たり
 
 
西国へ仕事で出かけた先で、人々が口々に
見たことのない獣が山で捕らえられたと唱えた
 
興味本位で彼は、会社の同僚と車をかって
消防署の分署へむかった。
 
到着すると獣を中心に村人が囲んでいた。
口々に馬でも、鹿でもない、その奇妙な獣を
勝手にうわさした
 
獣は捕獲される際、傷ついたらしく
ぐったりとして横たわっている
 
子供が水を与えようと汲んだ椀を
差し出した、獣はしずかに
水をすすり言った。
 
もうすぐ世界が終わる
そのことを伝えに私は来た
 
 
その先を言う前に、村人達は
獣の首を落としてしまった
 
そして息絶えた獣を山の鍾乳洞に
投げ捨ててしまった
 
彼はその出来事にショックを受けた
その獣が何かの使いであり、
正しい答えを導くはずだったのに
 
人々は事実を受け入れることなく
仮初の世に甘んじることに
平穏を嘯く
 
そんな危険な世界に
本当の安らぎなどは
あるのだろうかと?