初夏の車輪

夏の前の淡い緑に囲まれたホームにて
彼は別れを告げていた
 
ここまで一緒に旅を重ねてきた仲間に
向けて、何を話していいのか少しの沈黙があった
 
仰げば、雲雀が澄んだ空の奥で鳴いている
 
ありがとうと言えばいいのではないかと
彼は思ったが、何がありがとうなのかと
問いかける自分もいた。
 
きっと一緒にいてくれてありがとうなのだが
それを説明することも照れくさい、だから
 
このままお互いが解りあったふりで
さよならするのがいいと思う。
 
いろいろなことがあった事を
振り返るには時間が無さすぎだし、
一言で片付けるほど、さびしいものはない
 
彼が、これからどこにいくのか
誰も知らない。
 
誰も知らないから大丈夫ですよと
いう顔して彼はローカル線に乗り込んだ
 
手をふってくれるみんなに対して
彼もそんな顔をしてドアを閉じた
 
警笛をならして車輪は廻り始めたのだった。