帰る人

これ以上 年齢を重ねても意味がないから戻してくれと
彼は神様にお願いした
 
しばらくして神様はやったことないけど、
やってみるねと夢で伝えた
 
その日から彼の年齢が重ねられることはなかった
見た目はそのままだったけど、年齢は戻されていった
 
会社の懸案だった多くの問題を彼はすぐに忘れた
部内の派閥争いについても簡単に忘れた
それからの彼は無心に働いて、どんどん仕事のことを忘れていった
 
休日は
子供たちと近くの公園でたくさん遊んで、子供たちのことを忘れた
細君とは楽しいデートをたくさんして、彼女のことを忘れた
 
毎日、時間を遡りながら、一人だったころの彼に戻っていった
 
ドライブしたり、山に登ったり、海に浮かんだり
たくさんのことを毎日やりながら、どんどん忘れていった
 
大好きな音楽をたくさん聞いて、   その音楽を忘れた
胸が熱くなる映画をたくさん見て   その映画を忘れた
 
季節を忘れて、故郷を忘れて、国を忘れた
日差しを忘れて、風を忘れて、夜を忘れた
悲しみや ため息や 喜びや 興奮を忘れた
 
彼はもう、居心地のいい 無垢な世界にただよっている存在だった
 
最後に自分のことをを忘れて 空になった。