その人を交差点の向こう岸に見かけたとき、
彼女は息がとまりそうだった。
あまりにも彼にそっくりだったので、
彼女は何かを叫びたくなる衝動を抑えるのが
精いっぱいだった。
似ている人なのだと何度も
自分に言い聞かせようとしたが
彼女の眼はそれを拒んだ。
すぐにでも交差点を渡って彼のそばに行くことができたらと
彼女は焦る。
やがて歩行者の信号は青となっても彼女が渡ることはなかった。
似ている人に違いないのだから。。
彼女は顔を伏せて静かに彼が通り過ぎるのを待った。
彼もまた一つの視線をこぼさずにまっすぐ
通り過ぎてしまった。
彼は気づかなかったのだろうか?
彼女は振り返りたい衝動に駆られた。
どちらでもいい。。
気づいたかもしれないし、気がつかなかったかもしれない。
交差点に取り残された彼女の長い影は
やがて静かに消えた。