朝が早かったので誰にも言わずに
いつもの鞄を持って旅に出た。
ここのところ皆、疲れているようなので
彼なりに気を使った感じだ。
指定席なのか自由席かわからなかったが
とりあえず空いてた窓際に腰を下ろして
朝霧の車窓を楽しんでいる
カセットが入ってない
ウォークマンから流れる曲は
半世紀も前の曲だが彼にとっては
少しも古びれない。
いつの間にか用意された熱いコーヒーを
唇に運ぶとホッとする
一人だが、寂しくはなかった。
これまでのことを考えると
楽しくなる。
長いようで短い物語だった。
その一枚一枚が心の中に展示されていて
全てが満足だった。
あんな事やこんな事があったと
振り返ると嬉しくて涙になった。
そうやってみんな、同じように
この列車に乗って旅に出たのか
ありがとう
彼はそうつぶやいた。
そこに誰かがいた
五月の風が吹いていた。
目が覚めると皆がそう思った。