はだかの王様ゲーム

峠を半ばほど超えたころ
麓から降っていた雨はちらちらと舞う小雪となった。
 
(日が沈むまでには山越えて、向こうの村までゆきたい)
 
ぬかるんだ轍にズボンの裾を気にしながら彼は上ってきた道を振り返る
いつの間にか綴れなる向こうの山々には大きな雲が掛かっている
 
「いそぐか」と彼は背中の荷物を肩に引き寄せて足を速めた。
 
靴下まで濡れた足先は冷えて、感覚もよくわからない
ポタポタと雪は山肌を消して
白いじゅうたんを敷き並べていくなか
彼は足跡を残し、雪はそれを消す。
 
葉も枝も、花に標に雪は降り積もり
肩に背に、荷に頭に雪は降り積もる
 
ふと、それに気づき空を仰ぐと
雲のすきまから傾いた日差しが少しだけ詫びるように指し
峠のほうから下りてくる彼女の影を細く伸ばした。
 
荷を背負い、キッと唇を結び、前を注視しながら
黙々と彼女は近づいてくる。
 
彼はその懸命さに声をかけるのも躊躇していると、
女は足元をつまづき、「あ」と短く発した後、
ごろごろと下の曲がり道まで転げ落ちた。
 
すわ一大事、彼女の様子を見に坂を下り始めると
足元をとられ、彼もごろごろと曲がり道まで転げ落ちた
 
幸い新雪が干渉となり二人とも怪我を負うことはなかったが
お互いの荷はちらばり困った顔をしているところに
遠くから乗り合いバスが黒い煙を吐きながらジャリジャリとやってきた
 
ホッとしたのか彼女がおもむろにカラカラと笑い出した
彼もつられて大きな声をあげて笑ってしまった。
 
すっかりニュートラルになった彼は
曲がり道下のバス停から
麓の町へ戻ることにした。
 
車窓から眺める夕暮れの空には
また小さな雪がぱらぱらと舞い始めた。