時間は流れるものだ。
立ち止まり虚ろうものではない。
彼女の白いショートワゴンは
ガレージを出て北に向かう。
ナビは目的地までを案内する
踏切があるとか、ガソリンスタンドを曲がれとか、
あと何分で到着だとか
情報を伝えてくれる。
その度に彼女は以前の記憶を思い出す。
友人と朝日を見に海岸線を走った事や
夜中にドラッグストアを探し回った事や
交差点で通りすがりにみた家族の事や
もう勘弁してほしい。
にもかかわらず、ナビのメモリをリセットできないのは
まだ彼女の時間が動き始めてないのだろう。
危ないからやめな と友人は忠告してくれる
度に苦笑いしながら話を逸らす
この車に誰かと乗ることはもうないなと思った。
もうすぐ目的地ですと言われても
それは彼女とナビのメモリにしかない。