五月の最後の日

あなたを好きになってよかったと
彼女はつぶやいた
 
私はあなたを好きになったけど
あなたは好きになってくれなかったと
彼女はつぶやなかった。
 
彼女は自分の気持ちは最初のつぶやきで
十分だとわかったから。
 
夕暮れの三叉路で少し話して
彼は右に、彼女は左にそれぞれの家へ帰る
 
帰宅部の二人にとって、この二年間は
あまりにあたりまえのことのように流れた
 
信号機が何色だったかもよくわからない
ただその日は夕焼けが鮮やかで
 
お互いをしばらくみつめあったまま
さよならをした
 
彼は静かに微笑みながら右手をふり、
彼女は自転車を押しながら背中で
つぶやいた
 
ふりむくことなく涙は自然に
薄暮の町に溶けてった