2052年

40年前より活発な地殻変動が始まり
世界の潮位は徐々に上昇した。
 
それまで都市と呼ばれていた
札幌、東京、横浜、名古屋、大阪、広島、博多などは
海面下となり今はない。
 
北海道は東北海道と西北海道に島がわかれ、
房総半島も三浦半島も今は島と呼ばれている。

首都をどこにするかで国会は揉めたらしいが小さかった東京は
さらに小さくなっても首都を譲らず、
八王子市に旧国会を模造した建物を作った。
 
東海道新幹線も多くは水没してしまったため、
着工中のリニアモーター線を新新幹線に転用することが決まった。
 
大和半島から鎌倉島、三浦島、房総島までの
アクアライン構想も生まれたが予算がないので
いつできるかわからない。
 
ただ、ここ数年は地殻変動は収まっている。
 
人々の意識の改革とエネルギー政策の見直しで
電力需要はそれほど逼迫してはいないが
 
慢性的な品不足を解消するまでには至っていない。
 
ただパラダイムシフトされた現実の中で
それに順応しようとする意識こそが
新しい世界を担っているように思われる。
 
過去の時代を取り戻すのではなく
今の時間から未来を作っていく。
 
そこに順応できなかった幾つかの新興国は退廃し
もとの貧しい世界に戻ってしまったらしい。
 
便利なものは失ってしまったが
それが不幸だとは限らない。。


 
少し早く着きすぎたかとホテルのスカイラウンジで彼を
待つ彼女はその細い腕に巻かれた古い時計を覗き込む。
 
眼下に広がる海は夏の終わりを示すように
少し落ち着いた藍色に広がり
白い入道雲が潮風に引っ張られるように沖に去っていく
 
関東湾を行きかう帆を立てた定期船が光の波と戯れながら
キラキラと漂うとき
 
なんとものどかなこの風景を
彼女は好きだなと思う。