月樹

 

月の世界には不思議なものがある。

 

乾いた土から垂直に一本の白樺が

天に伸びている その先を仰ぎみるも

幹も枝も漆黒の闇に溶けて見えない。

 

ただ時折り落葉で葉を散らすが

月面に落ちる前に塵になってしまう。

 

もう幾十年も彼はこの木と対峙している

彼は米国製の宇宙服を纏いチタンの斧を

振り下ろして幹に楔を撃つ。

 

真空の世界に金属音が遠くまで響く

 

彼は幾度も楔を打ち込むが

木の透明な樹液は一晩で

彼の楔を塞いでしまう。

 

それでも今日も彼は己の信念として

チタンの斧を振るう。

 

いつか月の裏側を訪れたなら

見に行ってみようと思う。