午後7時、足の悪い彼は夏山を一人、くねくねと歩いてる。
少し息が切れそうになると、ペットボトルの水を口に含みながら
あの頃はよくこんな所まで、妻はついて来てくれたもんだと思ったりもする。
『 このさきだよね? 』
(数十年ぶりにたくさんの流星がやってくる)
息を切らしながら、屈託のない声で夫のシャツの袖を掴む
『 うん 』
そういうとまた、二人はのろのろと歩き出す。
鬱蒼とした林を抜けるとき、彼女の握る手に力がはいる
『 こわい? 』
ちょっと意地悪に聞いてみる。
『 ううん 』
だいじょうぶだと妻は肩をすくめて歩き出す。
暗い闇の中をこうして手をつないで歩いてるとまるで...いや、
それは考えてはいけない。
すると
暗い森は突然、途切れ 目の前に広大な草原が広がった
満天の空には数千の星が瞬き、夏の大三角は頂上から二人を見下ろしている。
音のない映像とはこういうものだろう
今にも落ちてきそうな色とりどりの星を掴むべく、
彼は思わずその小さな手を放してしまった
山風がザァっと草原を駆けてった。。あわてて彼は振り返った
そこにいた妻の影は、さびしそうに 消えてしまった。
とりかえしのつかないカナシミがそこはかとなくよせて
いくつもの星が夜空を流れました。