少年は味気ない天井を眺めながら
ポツポツと軒先を伝う雫の音をたよりに
ああ 雨が降っているのだと思った。
 
にしてはカーテンは明るく不可思議だったので
そばにいる母に(雨が降っているの?)と
たずねると
(いや降っていない)と言う。
(外は良いお天気よ)と付け加える
 
雫の間隔は短くなったようで
ガラス窓や表のアスファルトに跳ね返る音も聞こえる
 
結構降ってるようだ でもなぜ家族は降ってないというのだろう?
 
母も妹たちもそばにいて明るく話をしているが
それが何の話題かは彼にはわからなかった。
 
ただとても楽しそうに愉快に笑いあってる
 
きっと彼が不安になるのを押し殺して
家族は無理に笑っているのだなと彼は思った。
 
ならば僕もそうしようと、小さな笑顔を作って見せた。
そして息を引き取った。
 
すると母も妹も老いた祖父母も親友の頬にも雨は落ちてきた
こらえきれずに涙はあふれてあふれて停まらなかった
 
カーテンの向こうは5月の眩いばかりの光で満ち溢れている。