聖夜

夕闇から夜にかけて彼の気持ちは急いでいた。
山頂のホテルに荷物を届け、荷を軽くしたトラックは尾根を下る。
 
数日前に降り積もった雪は昼間の暖かさで融解したものの
急に冷え込み始めたこの時間にまた凍ってしまうようにも思えた。
 
その前に山を降りてしまえば社員寮の暖かい夕食に滑り込めるだろう。

 
ふと暗闇を照らすヘッドライトに粉雪が舞ったような気がした。
(やな感じ。)
   
雪はやがてフロントガラスを目がけて覆ってきた。
しょうがなく彼は車を路肩に寄せて、チェーンを履く準備をした。
(参ったなぁ。)
   
登る車も下る車もなく彼のエンジンだけが深い森をつつむ。
 
悴んだ手でチェーンをひっぱりながらようやく巻き終えた彼が
ふと空を見上げると、いつのまにか雪はやみ、雲の間に星が見える。
 

一台の車が上ってくる音が聞こえた。ホテルの送迎用のバスだった。
子供たちは口々に歌いながら楽しそうに通り過ぎていく。
(ああ そうか 今日は聖夜だったなぁ。)
 

彼はそうつぶやくと 今度は静かにアクセルを踏んだ。