時間旅行箱

普段は忘れられたような近所の境内も正月となれば
出店も出て活気がつく。
ふらり一人で参道を歩いているとおもちゃ屋の店先に
時間旅行機と書かれた小箱を売っている。
 
手作りの体裁で箱には小さな穴と取っ手がとりつけてある。
新年のご祝儀とばかり小箱を覗けと店主は笑う。
 
小箱の中央にある小さな穴を覗くとなるほど万華鏡になっているのだ。

色とりどりの模様がハンドルを回すと回転するような仕組みになっている。
 
そういえば子供のころ、この万華鏡の仕組みがよくわからず
妹の万華鏡を壊して泣かせてしまったことがあった。
新しいのを買ってあげるからと言っても
どうしてもそれでないと困ると彼女は泣き止まなかった。
学校の授業で作った万華鏡は若くして病死した担任との思い出の品だったらしい。
 
にがい記憶の断片と共に
兄らしいことは何もしてあげることはなかったなと
 
怪訝な表情で店主を見上げると
ポケットの携帯に妹夫婦から新年の挨拶をかねたメールが着信していた。