音楽殺人

トーマスペインパークで老いた男の変死体があがった。
当初は急性疾患の可能性が疑われたが検死の結果、異常はなかった

数日後、セントラルパークでも同じような状態で若い男女の変死体があがった
ここにきてようやくニューヨーク市警も事件の解決を試みることになるが
彼らの背後に共通性もなく太めの巡査部長は苦味をつぶした。
 
そこへ丸眼鏡の細いズボンの男がやってきて
これは音楽殺人ではないかとつぶやいた。
なぜならば彼らの共通項と鳴る唯一のそれが
耳にはめていたミュージックプレイヤーだからだと嘯く。
 
たしかに彼らは小型のヘッドホンを装着した状態で倒れていたが
音楽で人を殺すなんて聞いたことがないと巡査部長は鼻で笑った。
 
(そうかね 音楽で愛が奏でられるように、死を味わうこともできるのじゃないかな)
 
そういうと男は無愛想に片手をポケットにいれて警察署の回転扉を後にした。

巡査部長は男の言葉が気がかりとなり鑑識課に放置されいた
ミュージックプレイヤーの一つに手にかけた。
おもむろにスイッチを入れると、
 
音楽ははるか遠くから静かに鳴り始め、空から落ちてくるように
いくつもの旋律が頭の中を回り始めた。
それらは短いフレーズとつなぎ合わせて音色を替え、音圧を変えて
鼓膜の裏側まで入り込むような錯覚を覚え、あわてて彼はヘッドホンをはずした。
 
(なんだこれは!)
 
彼は黒い瞳をさらに大きくして、荒い息をあげた。

その音楽が誰が作って、誰の手で演奏されているかを調査しようにも
その音楽を聴かなければ話にならない。
 
彼はもういちど、ヘッドホンを耳にした。すると今度は

にわか雨をバックにチェロの半下降音が静かに流れだす。
この音楽は以前どこかで聞いたことがある、
クラシックの有名なやつだったかと耳を澄ます。

田舎育ちの彼にとっては故郷の大河を思わせるものだった、
ゆったりとした流れはいつまでも少年の心に焼き付いている事件を呼び起こす。
ずいぶん昔の話を慰めるように演奏される音楽に彼はすっかり哀しい気分になってしまった。
 
そうして4人目の犠牲者がでるころになってこの音楽の凶暴性がマスコミで話題となった。
 
ワイドショーを前にした丸眼鏡の男は難しい顔をしている。
 
音楽が人を殺す道具になることはない。
ただ生身の人間にとって、猜疑や懐疑となる気持ちは誰にでもある。
日常の中でそれらは心の奥のほうに追いやられているから
人々は前を向いて歩いていられる。
ただそれらを心の中から無造作に引っ張り出されてしまっては、
いたたまれずそういう行動に走る人は多いのじゃないかな  なぁ?
 
彼はソファで寛ぐシープドッグに問うてみた。