駅舎

小さな駅舎の改札には、誰もいなく
すぐに発着する列車がないことを教えてくれる。
 
待合室の古い木のベンチには行商のばあさんが
居眠りをしながら、その時を待っている
壁にかけられた丸い時計は午後3時を回ったあたり。
 
日は少し傾いた頃だろうか、西日が駅舎の中を差し込んできた
彼は内ポケットから煙草を取り出すと一本だけ火をつけた
 
古い記憶がふと脳裏をかすめる。
 
隣家の娘もまた、この駅から旅たつ若者だった。
家族や友人に見送られ、希望の街を目指し改札をくぐる。
 
この小さなゲートが故里の門のように。
 
都会の生活が淋しくて
雪の夜に彼女が舞い戻ってきたのはいつだったろうか?
 
しばらくしてまた都会に戻ったと彼女の母親に聞いた。
ここには何もない。ただの田んぼと山だけだと告げて。
 
過疎というのはそんなもんだろう。
 
二本目の煙草を据付の灰皿でもみ消すと
始まったばかりの改札へ彼は足を向けた。