居酒屋

出張で本社へ行った仕事帰り 彼は工場の友人を誘って
ガード下の居酒屋に入った。
 
まだ早い時間だったので、店内は数組の客しかいない。
 
角の小さなテーブルに案内されると
彼の前に座った大柄な男と隣に座った眼鏡の男は
ジョッキの生麦酒を、
斜め前に座った細い男と彼は瓶麦酒を頼んだ。
 
ガラスのコップに冷えた 麦酒を彼は注ぎながら無沙汰を詫びた。
 
幾つかのツマミを食しながら
話題は職場の事や景気の事、家庭の話に広がった
 
大柄な男と眼鏡の男が話を盛り上げ
細い男はコップにも箸にも手をつけず
楽しそうに話を聞いていた。
 
大柄な男が便所に、眼鏡の男が掛かってきた携帯で席を立つと
細い男は時間だからと言って帰り支度を始めた。
 
彼は大丈夫かと問うと細い男は静かに笑った。
(今日はありがとう)
どちらともなく出た言葉で細い男は店を出て行った。
 
便所が混んでいたと大柄な男は戻ってくると同時に
電波の調子がおかしいと眼鏡の男も帰ってきた。
 
誰もそこにいた細い男のことを気にかけず、小一時間もすると
お開きになった
 
(もう一人は誰を誘ったんだ?)
と隣の空席を眺めたながら大柄な男は赤ら顔で彼に聞いた。
 
彼は澄ました顔で言葉をはぐらかすと
ふといつの間にか細い男のコップが空になっていたことに気づいた。
 
(そっちで少しは飲めるようになったのか?)
彼は冬の星空に聞いた。