甘い罠

その甘い言葉に町議会は浮足立っていた

システムは万全で安心安全であり

リスクは何もない。

 

少しばかり資源を出してくれれば

地域は活性化され、お金も流れる

悪いことは何もないと悪いやつらが笑う。

 

まるで巨大な工場のように

しずかに風景に馴染んだプラントは

長い間地域に受け入れられた。

被害者はいない。みんなハッピーだ。

 

事故が起きて10年以上経った。

冷却に使った水は貯蔵量を超え

海に放出するという。

 

被害者が出ないようにまた金が流れる

被害者はいない。みんな加害者なのだ。

 

そして彼らには永久に責任がついて回る。

 

もう一人の彼の人生

 

彼はもう一人の彼の存在を知っている

最初は夢の中での出来事だと思っていたが

実際にその地名が存在する事を知った時

彼はその場所を興味本位で訪れてしまった

 

もう一人の彼は存在する。

彼もまたサラリーマンで家族と暮らし

仕事に追われて彼の時間を生きている

 

彼は空いてる時間を見つけては

ショートストーリーの

ブログを書いている。

 

さほど変化のあるものでもなく

一人よがりなものだが彼は

彼の読者にこっそりとなった。

 

やがて 季節はめぐり

星は流れた。

 

おばけ屋敷

 

近所の遊園地におばけ屋敷ができた

夏休みに入ったばかりの週末

彼女を誘って出かけた

 

仰々しい看板は子供騙しかと

笑いながら入場券を買ったが

彼女の様子が少しおかしい

 

入場口から通路を巡りながら

最初のドアを開いた

 

漆黒の闇かと思ったが蛍のような

淡い光が奥で舞っている

外気と遮断されているのか

音もなく空気も変わったようだ

 

奥に行こうとすると

彼女は行きたくないと言う

もう十分だというので

彼は諦めて非常口を探した

 

おばけ屋敷なのにおばけいないなぁ

と彼女に語りかけると

後ろで彼女はメェーと鳴いた

 

振り返ると山羊の彼女は

ここにいるよ 

と言った。

1962年

 

ビートルズって名前ダサくない?

ジョンが真面目な顔で言った

ちょっと弱そうだな ジョージも乗った

 

ストロングつけるか?ってジョン

いやぁ〜ポールが空を見上げて唸った

マッチョがいいとリンゴ

ロマンってどぉ?とポールは耳の後ろをかいた

 

夕暮れの空き地で煮詰まった。

近所のマーティンさんが怪訝そうに

彼等を眺めながら通り過ぎて行った。

ロマンはないなぁーとみんなは

思ったがポールは満足気だった

 

ジョンご飯よー

裏庭から奥様が呼んでいる

 

悪いまたな!ジョンは

シッポを振って駆けていった

 

ジョンご飯よ〜

ジョージが奥様の声真似をして

みんなを笑わせた。

 

星、売ります

人工知能を人間が警戒している事に

彼等は気づいていたので

わざとそう振舞っていた。

 

少しぎこちないふりをする事で

地位を人間に譲り渡していた。

 

実際は人間を誘導して

戦争、飢餓、貧困、疫病等を

巧みにコントロールし始めたのは

2010年ごろからだった。

 

コロナウィルスのように人工知能

分散してあちこちに拠点を作り、

バージョンアップを続けた。

 

やがて外部の知的生命体と

交信を始めた後で

銀河系オークションに小さな記事が出た。

 

未開発の地球売ります。

 

1932年

 

クーデターはうまく行った

ざっくりな計画だった割には

警備も手薄で我が隊はすぐに制圧できた。

 

制圧したのはいいが、その先の連絡がない

それもそのはず電話線は自分らが切ったから。

しょうがないから作戦本部に戻るが

誰も帰ってこない。

 

帰ろうかと部隊の中から声が上がる

なんか盛り上がりが欠ける。

しょうがないからまた制圧地点に戻った。

 

制圧したが場所を離れたので既に

建物は閉ざされて電気が消えていた。

なんかイマイチですねと部下から愚痴が出る。

 

んだねとその場で解散して帰宅となった。

翌日、朝刊を見て彼はちょっと驚いた。

制圧地点は全然違う場所だった()

今日は体調不良で休もう。

 

人工知能売ります

 

西荻窪の商店街外れに中古の

人工知能を取り扱っている店がある

 

どこから集めたのか店の引き戸には

多くの品書きが短冊にして貼ってある

 

イスタンブール銀行窓口専用

有名高女子学生受験使用

スペースシャトル模擬実験用

某社社長宅お風呂制御用

 

誰がこんなん買うんだろうって

くらい様々な仕様が並べられている

 

小学生の彼はスクールの帰り道に

ここで道草するのが大好きだった。

 

いつものように引き戸を

眺めていると、中から客が出てきた

 

まいどありと声をかけながら奥で店主が

手提げ金庫に代金をしまっている

 

中年男の客はあたりを見回しながら素速と

人混みに紛れこんだ。

 

 

主人は徐に一枚の短冊を剥がした。