箱庭の週末

 

苔や蔦が蔓延る細い道を

おしゃれな若者達が買ったばかりの

キャンプ道具を持って下っていく

 

スマホを片手に箱庭の週末を

楽しむ予定らしい。

 

非日常の中に日常の利便性を

落とし込んで、歪んだ満腹感を

電波の向こうで共有する

 

自然が公園の砂場のように

遊びやすい空間だと勘違いしない

ように指導する必要があると

 

昨夜の山に暮らす鳥獣委員会で

月輪さんが提案した内容に皆同意した。

 

I stand at your gate

 

薔薇の香りがすると

朝靄の中でぼんやりと彼は思った

 

森の水分がそう思わせたのかも知れない

昨夜の世界の喧騒が

嘘のように今は皆眠り込んでいる

 

激しい時代は終わった。

嗅覚も聴覚も視覚も臭覚も

少しずつ衰えてホントの彼だけが

残る

 

有明の月が労を労うように

空にある。

all animals company

 

アフリカに帰りたいでしょうとか

日本は蒸し暑くて大変ですねとか

よく声をかけられる事がある

 

そんな時は聞こえてないふり

する事が多い

 

無理もない

彼らはイメージで見てる

 

それに名前に場所が入ってるから

余計そう見られる

 

横浜なんとかとか大阪なんとか

書いてあればそこから来たと

思わない方が不自然だ。

 

だが実際はみんな地元で生まれ

育った地元っ子である。

地元の人間が地元の動物を

見に来てるだけなんだ。

 

だから馴染みの顔を見かけると

今日は楽しそうとか

今日は元気ないなとか

こっちからも見てるんだよ。

 

那覇空港にて

 
計算センターの仕事を終えて
国際通りのホテルから空港に戻る際
タクシーの運転手はマングースのショーを
見ていくことを進めてくれた

いや飛行機の時間があるからと
断りながらも広がるエメラルドの海を横目で見ている

まだ2月だというのにずいぶん暖かい。
コートはいらなかったな
若い彼は苦笑した

駐車場でお礼を言って
トランクから鞄をうけとると
彼は出発カウンターで手続きをして
いつもの場所へ向かった

待合室は混んでいて
彼は避けるように階段から
2階の踊り場に抜けた

そこには小さな窓と
ベンチがある。
誰かと出会うこともない場所だった

ステレオカセットにはビート二クス。
最近発売されたCDをダビングして
もってきた

窓の外は青い空
出発までのわずかな時間を
彼はのんびり楽しんだ。

 

侵略業

 

どこの家庭でも少しくらいの揉め事はある

そこに目をつけ介入するのが彼らの仕事。

 

隣の家で娘の教育について夫婦間で対立

主人が声を荒げたタイミングで妻と娘側に

介入し、主人側を攻撃始めた。

 

主人側も家庭内干渉を理由に町内会長に

応援を要請。

 

警察は民事に介入できないので

話し合いを促すも侵略者は次々と

家の中を占拠していく。

 

いつもなら主人が逃げ出して

実力行使完了だが

主人も世論をバックに好戦を続ける

 

そうなると引くに引けなくなった

侵略者も消耗戦に突入する。

 

過去の強引なやり方だけでは

立ち行かなくなったと侵略業の親父は

肩をすくめた。

ゴン

 

ゴン お前だったのか?

硝煙を発する銃を抱えたまま彼はつぶやいた

 

お互いがどう言うものか

わからないまま真実にたどり着く事がある

 

降り積もった雪に小さな木の実が

大事に供えられている

 

痩せて細くなったキツネの体温を彼は

愛しく思った。

 

雲の隙間から光が差し始めると

あたりは眩しく輝く。その中に二人はいた

 

ゴン お前だったのか。

 

月樹

 

月の世界には不思議なものがある。

 

乾いた土から垂直に一本の白樺が

天に伸びている その先を仰ぎみるも

幹も枝も漆黒の闇に溶けて見えない。

 

ただ時折り落葉で葉を散らすが

月面に落ちる前に塵になってしまう。

 

もう幾十年も彼はこの木と対峙している

彼は米国製の宇宙服を纏いチタンの斧を

振り下ろして幹に楔を撃つ。

 

真空の世界に金属音が遠くまで響く

 

彼は幾度も楔を打ち込むが

木の透明な樹液は一晩で

彼の楔を塞いでしまう。

 

それでも今日も彼は己の信念として

チタンの斧を振るう。

 

いつか月の裏側を訪れたなら

見に行ってみようと思う。