故郷の空

 
南国の島は酷い戦いだった
 
彼は何度も心が折れそうになりながら
辛い選択をした。
 
このまま最後を迎えるのかと毎日思った。
隊員はみなボロボロだった。
 
西の岬にたどり着いて、いよいよという時に
若い隊長が振り返り、微笑んだ。
 
彼はハッとした。
 
(僕がこの歌を歌い終わったら、戦争は終わります)
 
(そしてみんな 故郷に帰ります)
 
そう告げると隊長は
 
♪夕空晴れて秋風吹き 月影落ちて鈴虫鳴く♪と歌いだした
 
ここが終わりなのだと彼は思った。
そして一緒に、彼も仲間もそろって歌った。
 
歌い終わると隊長は、静かに頭を下げて
(おつかれさまでした)といった。
 
みんなも顔を見合わせてお疲れ様でしたと
言い合った。
 
画面が揺れて眩暈が彼を襲った。
 
目が覚めると病院のベッドだった。
老いた彼は夢かと思ったが、そうではない。
あの隊長は笑ってたなぁ。。
 
担当医師は記憶の改ざんではないかと
学会から批判を浴びた
 
VRテクノロジーは人の記憶まで
書き換えられるところまできている。
心的外傷後ストレス障害の治療として
辛い記憶が和らぐのならと、
医師の書いた論文はそう締めくくられている。