新世界交響楽団

 

小さな町に楽団員は23名でした。
酪農家だったりパン屋だったり
メッキ工場の工員だったり
信用金庫の営業だったり。

 

生まれた国も性別も年齢もバラバラでしたが
みんな顔見知りでしたので
譜面に忠実に約束を守ろうと考えていました。

 

町長はこの楽団をなんとか有名にして
名声を上げることを考えていましたが
リーダとなる人物が不在のため
いまひとつ盛り上がらないのです。

 

そこで大きな町で噂を聞きつけた
信用金庫の営業づたいに団長となる人物を
呼び寄せることにしました

 

5月のある日
小さな町に向かう乗り合いバスに
八の字髭の紳士が黒鞄を横に
すまして乗っていました。

 

やがて町はずれの停車場に到着すると
ほかの乗客たちと一緒に
その大きな体を歓迎にきた町長たちの
前に現しました

 

どうでしょう?
翌日の午後、町長は
楽団の練習風景に八の字髭を
立ち会わせました。

 

う~ん 悪くないです。
団長はもっともらしく紅茶の
カップに手をのばします。

 

よくもないです。
とも付け加えました。

 

私は土壌改質の調査にきた
地質学者なので音楽のことは
よくわかりませんと言いかけましたが

 

みんなの真面目な視線を受けると
それ以上は黙ってしまいました。

 

もう一度きかせてください。
そういわれてみんなは演奏をはじめました

ドボルザークチャイコフスキーなのかは
わかりませんでしたが、
どこかできいた曲でした。

 

八の字髭にとってはそれだけのことでしたが
窓越しの丘に立つポプラを眺めていると
不思議なことに凛とした気持ちが
沸き上がってきました。  無謀にもです。