彼の前には一組の主婦らしき女連れが歩いてる
どうやら姑の愚痴を言ってるらしい
其の話は尽きることなくつづく
やむなく彼はタイミングを見計らって
追い抜くことにした
しばらく渓谷を脇に登り続けると
今度は家族連れが現れる
小さな子供づれの若い夫婦は
子供に気を使いながら、道をあけてくれた
(おとうさんこれからどこにいくの?)
小さな娘は父に聞いた
(いいところにいくのよ)
母親は娘の頭にそっと手をおいた
仰ぎ見ると小さな白い蝶が
無数に舞っている
やがて蝶は花になり雪になり
空からふりそそぐ
帽子を深くかぶって狭い山道にはいると
降りてくる影とルートを譲りながら
進むことになる
ふたたび地上に戻る影の
表情は見えない。どんな気持ちなのか
彼は知ることもない。
はらいそへまいる
まいろうやと太鼓の調子に合わせて
かすかに歌が聞こえる
はらいそへまいる
まいろうや
彼は其の歌を聞きながら
再び昇り始める