ほんとうのおわり

昨日の月を見に行くと
彼女は終電の山手線に乗り込んで
二週目の駅で降りた
 
彼らの住む町を訪れるには
あの日からずいぶん時が経った
 
明かりの消えた商店街を抜けて
彼らの集う店の階段を昇ると
笑い声がすこしづつ大きくなる
 
癖のあるドアをガタガタと開くと
一瞬静まり返って、みながこちらを見る
 
再び笑顔がはじけて
手を振って彼女にアピールするのは
友人たちだ
 
彼女は溢れそうになる涙を
こらえて笑顔で手を振る
 
(時間よ戻れ)
彼女は念じなかった
 
季節外れの線香花火はチカチカと
みんなの笑顔を残したまま
硝煙の匂いのなか、静かに消えた
 
昨日の月は丸かった
笑顔のように明るい
 
またねと言ったけど
これが最後と彼女は思った
 
またねと言った
風とともに。