グラっと軽く天井が回ったような気がした
(やばいな)と彼女は右頬を手のひらで押さえた。
最初の症状が始まってすぐに薬を飲めばなんなく治まるのだが
あいにく教室のカバンの中に忘れてきてしまった
(おちついて)彼女は願った
そのまま沈静化するのを待つしかない
友達の誰かが話しかけているが
彼女はだまって下を向いてた。
ずんと、再びその鈍い感覚は彼女を襲った。
なんとかこの音楽室から飛び出して、向かいの棟のクラスまで
駆け込めば間に合うかもしれない
(どうしよう)彼女がふたたび右頬に手を当てたとき
若い女教師は彼女に合唱へ加わることを命じた。
(あぁなんて最悪 カマキリめ)教師のあだ名を口の中で呼び捨てた
のろのろと立ち上がろうとする彼女を隣の男子生徒が小突いた
(あ!)
その瞬間、突風が左右の窓から吹き込むと
ぐるぐると音楽室の中を渦巻いた。
(だめだ)彼女が思った瞬間
ごぉーーーっと大きな竜巻は校舎のすべての窓を破壊し、
そのまま運動場の砂地を巻き上げ、
時計台をねじり、遊具をたたきこわし、教師の車をなぎ倒し
高圧電線を引きちぎり、裏山のほうへまっすぐと突っ走ると
すっと高く高く登っていった。
幸いに多くの生徒は机の下に逃げ隠れたために無事だった。
彼女はすっきりとした瞳でカマキリが促した歌を独唱しはじめる。
青い空はどこまでも深く すいこまれそうな午后の光。