成層圏

もうおわりだね ポンと彼は白いボールを夏空に投げ込んだ
 
放物線を放ちそれは彼女のグローブに落ちる
サマードレスを揺らしながら、細い腕を振りかぶって
 
君がちいさくみえる?と今度は彼女が空に投げ込んだ
 
コントロールを失った放物線を彼は腕を伸ばしてつかんだ
若葉に囲まれた公園を風は通り抜ける
 
ごめーん 彼女はニコニコしながら悪びれなく謝った
 
華奢なミュールでキャッチボールをするなんてと彼は思ったが
彼女には時間がなかった
 
いくよぉと 再び彼はボールを投げこむと
ぉぉと言いながら彼女は両手をあげた
 
ねぇ といいながら彼女は次の言葉と一緒に
受け取ったばかりのボールを放つ
 
なに?と言う前にボールははるか澄空を横切った
 
ああああ〜
ったくもぉ
 
と彼はボールを追いかけて池のほうにかけていく
 
キラキラした太陽の下、
木の葉の陰が、心地よい風にふかれて揺れるのを
彼女はみた
 
そして
しずかに自分も揺れていた。
 
汗を額にかきながら彼が帰ってきたころには
彼女のグローブだけが青い芝生に残されていた。
 
 
もう 行ってしまったのか、もう